時給900円で働く30代

限りなく事実寄りのオートフィクションで、登場人物の名前は全て仮名です。

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

第十六回 刺抜き地蔵

聖ヴァレンタインデイは私にはあまり関わりのない日でありました。私は中高一貫の男子校に通っており、この六年間は意外な女性からのチョコレートなぞあるはずもなく、気になる人から貰えるだろうか、気になる人からでなくとも一つくらいは貰えるだろうか等…

第十五回 三年寝太郎

如月のある日、週に一度の休みに私は同居人とアイススケートをやりに都を出でて神奈川の方に向かいました。我々は昨年も、その時は都内ですが二度ほどアイススケートを興じに出かけたものです。出京したのは三年前の初冬ですが、その頃は日々食うにも困るほ…

第十四回 僕には想像力が足りない

私は死ぬまで働かずに生きたいと考えておりました。大学などではそう嘯き、事実就職活動を全くしないまま卒業してしまいました。美味しい物が食べられなくなったからと自殺をした古代ローマの貴族ほどの矜持はないので、私は今、死なずに働いております。た…

第十三回 七十二億の妄想

私はこの仕事の初日から気が狂いそうになり、そのことはもう何度も書きましたが、特に初期は仕事の切り回しが体に馴染んでおらず、この箱は何処に置くのであったか、次に何をすべきか、まるで不明瞭で、薄暗く足下も見えない中を手探りで進むのにも似た状態…

第十二回 安物買いの

出京してすぐ私は自転車を購入しました。 当時私は失業保険を三ヶ月に渡り満額受け取り、上京資金として雀の涙程を残して使い切り、その涙で荷物を東京に送り、汽車に揺られ、アパートメントに着いた頃には口座も財布もすっかり軽く、しかしながら自転車は通…

第十一回 柿食へば金が失くなり

節分も過ぎ、私はただ春を待ちます。申し訳程度にひとつまみの豆をアパートメントの窓から鬼は外と撒き、数粒の豆を散らかったアパートメントの部屋の中に散らばらないようそろそろと、撒くというよりは一箇所に福は内とこぼし、年の数と言えば三十余りの豆…

第十回 夏に謝る

二月に入りました。前回に書いたように二月に入ろうと何も変わりません。ただ箱を運ぶのみです。昨年の二月とも一昨年の二月とも変わりません。昇給も昇進もありません。ただ、今年、平成廿七年の冬は寒さがあまり厳しくなく、仕事も昨年、一昨年に比べ、仕…