時給900円で働く30代

限りなく事実寄りのオートフィクションで、登場人物の名前は全て仮名です。

第二十回 鰐の舌

地獄の苦しみに苛まされる日々が歯科治療初日より数日続きました。
治療後、抗生物質と痛み止めを処方され、それぞれ食後に服用するようにと言われたので早速帰宅後昼餉を軽く喰らい、薬を飲み、午後からの仕事に出勤致しました。
その頃から舌に痛みを覚えました。
削った歯の淵がとても鋭利になっているようで、舌に切り傷が生じたのです。これが難儀でした。何しろ少しでも舌を動かすとその切り傷が鋭利な部分に触れ、鋭く痛むのです。咀嚼すれば痛み、唾を飲めば痛み、その痛みとは即ち切り傷をナイフで擦り続ける様なもので、気の狂いそうな荒行なのです。
また、痛み止めは大体六時間程で効力を失うようで、昼食後十二時半過ぎ頃に服用するのですが、午後六時頃から不穏な気配を醸し出し始め、七時頃には幾らかズキズキとし始め、午後八時仕事が終わる頃は痛み出し、帰宅の頃にははっきりと痛く、しかし薬は食後と言われているので、それを律儀に守って発狂しそうな痛みのまま片側の歯だけを使って咀嚼し、その度に舌の切り傷が抉られ、虫歯ではない側だけを使っていても堪え切れない程に痛む歯に辟易しながら、いつもの数倍の時間をかけて少量の夕餉をほぼ丸のみに近い形で平らげ、漸く痛み止めと抗生物質を服用し、効くまでの間蹲りながら堪え、やっと痛みが引いてくるのです。それでも舌の切り傷に鋭利な部分が当たる際の痛みは消えないのです。

くれぐれも、引きこもりであっても無職であっても保険証がなくとも歯には気をつけるべきなのです。
役所に行けば未納分を分割で支払うことも可能であり、即日保険証は発行されるので、不安があるのなら痛む前に歯科医に駆け込むのが吉です。
初診料が少しかかりますが、後は一回数百円の話なので、定期的に検診を受けるべきなのです。

しかし、一年前の私がこれを読んでも、保険証をちゃんと持っているにも関わらず、歯科に掛かろうなどとは思わない筈なのです。

それこそ私は以前から散々虫歯から死に至った人々の話を聞いていたのですから。