時給900円で働く30代

限りなく事実寄りのオートフィクションで、登場人物の名前は全て仮名です。

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

第九回 区切り

出京して以来三度目の一月が終わろうとしています。古里から東京に戻り、束の間ほんの数日の休暇の残りを惰ら惰らと過ごし、然し乍ら内心は、迫り来る仕事の日々に暗澹冥濛なのです。そして容赦無く平等に時は流れて仕事の日がやってきました。私が惰ら惰ら…

第八回 酒と男と

東京に帰る前日、私は主に自室で安閑と過ごし、その内に夜になりました。そして仕事の終わった小杉からメッセージが届き、私は家を出ました。酷く冷える夜でした。小杉と共に身体を震わせながら繁華街に向かいました。住宅地を抜けながら、時折大通りを跨ぐ…

第七回 非日常という日常

貴族の私は満腹のまま床に就き、目覚め、軽く朝餉を喰らい、自室に戻り、友人からの連絡を待っていました。友人こと小杉(仮)は古くからの付き合いで、出会いは小学生の時になります。爾来中学、高校、浪人、大学まで同じという稀有な知人で、卒業後も緩々…

第六回 僕ぁ貴族だからね と私は嘘を吐くのであった

後輩の住む田舎町の駅に着き、我が街に向かう電車を待つ。見ると三十分以上待つということだった。長らく東京の電車を使っていた私には幾らかのカルチャーショックであった。兎も角寒さに震えながら待ち、漸く来た電車に乗り込み、転寝しながら一時間揺られ…

第五回 君はまた美しくなって

古里は以前の我が住処に非ずと前回書きましたが、今回の帰省は中々楽しみが多かったのです。 生家に着いた次の日は生憎の雨でしたが、少し鈍行列車に揺られ、我が地元よりも更に田舎の小都市に向かい、懐かしい人に会いました。 彼女は私の大学時代の後輩で…

第四回 古里は遠くに

私は夏以来半年振りに暫く帰郷していました。私の休日である水曜日から、次の水曜日までの計、実に八日間のお暇を戴き、そのうちの初め四日間を里帰りに使い、五日目に東京に戻って参りました。我々の仕事場では、休みは以前書いた通り、年間通して祝日関係…

第三回 烏と夜景の持ち回り

倉庫には烏がいる。烏はよく高い梁の所に佇んで、我々が働く様を見下ろしている。漆黒の羽に覆われ佇立する姿は高邁な思索に耽る知者の様であり、桎梏に囚われ肉体を酷使する我々を憐れんでいる様にも見える。人間の知の結晶として、人間達が汗水垂らして作…

第二回 嗤フ怪人

越南人のフェイフォンは岩乗にして倉庫内随一の怪人である。随一と言っても倉庫内には他に怪人と呼べる人間はいないのだが、それはどうでもいい。まず彼は休まない。主観ではあるが、彼は年に三十日も休みがないのではなかろうかと見える。勤務表上は私と同…

第一回 そして最終回との交差地点

新しい生活の始まりには期待と不安が入り混じるものです。私は躁鬱ですが、鬱でない時は比較的物事を楽観視する質で、東京に来た時も明るい未来を思い描いていました。実際のところ丸二年が経った今も明るい未来を信じております。というよりも縋っていると…

零 時給900円で働く30代の日常

以前に、基本的には朝八時から夜八時まで働くと書きました。もう少し詳しく書きます。私の仕事は、倉庫内で、次々とトラックから降ろされるプラスティック製の箱を整理することです。箱とは、スーパーマーケットなどに搬入する食料品等を収める物です。私の…

負の一 余は如何にして時給九百円で働く三十代になりし乎

私は、とある地方都市に生まれ、育ち、一浪した後に同じ県内の少し離れた大学に通い、卒業し、日本を離れ、一年と少し国外を放浪したり定住したり仕事をしたりした後帰国し、一年ほど夜の仕事をしていたのですがその店が潰れ、爾来数年に渡り、携帯電話、ネ…

負の二 前口上

私、佐藤裕也(仮)はタイトル通り時給九百円で働く三十代の男性です。 都内の片隅で、基本的には朝八時から夜八時まで、週に六日、薄暗い倉庫の中で何の技術も身に付けられず、何ら人生に役立つ経験も積むことのできない肉体労働に明け暮れているのです。 …